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全て翠になる日まで #1 出会い [Midori]

尾崎翠

尾崎翠

  • 作者: 尾崎 翠
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1991/11
  • メディア: 文庫


インターネット以前の時代に片田舎で思春期を過ごしたある女の子の話から始めよう。

初めて尾崎翠の本を読んだとき、わたしはまだ地方都市在住の高校生で、活字にひたすらに飢えながら、ひどく退屈な日常生活を送っていた。楽しいことはいつも遠くにあった。美しいことは常に書物の中にあった。門限は夕方の5時、日が暮れて暗くなる前には帰宅し、家族と食卓を囲まなければならない。学校と自宅との往復だけに拘束された日々の中で、多少は気分が変わる、その数少ない機会は、休日、図書館と本屋にいるときだけだったのだ。

上掲した尾崎翠の本に出会ったのは市内の本屋だった。わたしが住んでいた街の中心部にあったファッションビル、その地下にリブロ(本屋)があった。(現在ではそのファッションビルは売り上げ不振ですでに閉鎖され、もちろんリブロもなくなっている。)時に伝説として語られる、あの全盛期のリブロ池袋店のラインナップを系列店として意識していたのか、そこら辺の他の本屋とは明らかに毛色の違う品揃え、幻想文学の本棚を見上げては溜息をつく。バイトも許されていない、お小遣いも少ない、ときたら、大抵のハードカバーは諦めて購入は見送るしかなかった。けれども、ある日、文庫の棚に、妙に惹きつけられる表紙を発見してしまう。柔らかな薄緑で描かれたフキノトウの絵のカバー。そこにかけられた帯(いつのまにか紛失してしまった)には、たしか、こう書いてあった。

「今晩蘚が恋をはじめたんだよ。」

奇妙で不可思議なこの一文を、何度も何度も、繰り返し読んで、わたしは、どうしても気になるその一冊の、やや高額な文庫本を、結局、ふらふらと購入してしまったのだった。

それが、わたしと尾崎翠の作品との出会いで、あれからもう15年もの年月が経ってしまった、いつのまにか、あっという間に。


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